微生物学講座【食品微生物編】3時限目「微生物による食品の劣化」 | 未経験の方のための基礎知識
食品の微生物による劣化には、微生物が増殖するに伴いその代謝作用によって食品の成分が変化する場合と、
病原微生物の増殖にすることにより、それを摂取した人間が健康を害する場合がある。
前者は一般に腐敗と呼ばれ、腐敗細菌が食品中に増殖し、
食品本来の形、色、香り、味や栄養成分などが損なわれ、時には有害成分が蓄積されることもある。
後者は食中毒や経口伝染病と呼ばれ、食品中に病原微生物が混入、
あるいは外観的に変質を呈しない程度に増殖して食品衛生上の問題を起こす。
腐敗というのは、狭義にはタンパク質が微生物の作用で分解される現象を示し、炭水化物が分解される現象を発酵、脂肪が分解される現象を変敗として区別することが多い。一般的には、食品成分が微生物により分解されることによってその可食性が失われ、食品としての価値がなくなる現象とみなすことができる。
タンパク性食品は、細菌類の分解酵素によりペプチドを経てアミノ酸、さらに各種の有機酸、アミン、アルコール、炭化水素などを生じる。硫黄を含むアミノ酸からはメルカプタンや硫化水素が生成され、食品は強い臭気を発する。
澱粉、セルロースなどの炭水化物は、糖類を経て有機酸やアルデヒドに分解され、更に分解されて炭酸ガスとなる。
初期の腐敗を感知する最も簡単な方法は官能検査である。食品の鮮度が低下するに従って、まず異臭を感ずるようになり、褪色、変色、光沢消失などが見られる。液体食品では沈殿、凝固、発泡などが見られ、固体食品では弾力性の低下、軟化、粘液化などの現象が起こる。また、味覚変化では異味、刺激性などがある。しかし、これらの現象の感じかたには個人差があり、客観的な判断は訓練された専門家でないと難しい。
微生物による変質は食品に微生物が増殖することによって起こるので、微生物の増殖因子並びに環境条件は食品の品質保持にもっとも重要な問題と考えられる。
食品の悪変は、食品中に微生物が増殖することによってもたらされる。従って、食品の保蔵の原則は、食品を微生物の汚染から守り、何等かの方法によって微生物の増殖を抑制することである。保蔵の方法は次の二つに大別できる。
- 食品を低温、凍結、乾燥状態においたり、食塩、酸や防腐剤を添加して、食品中での微生物の増殖を抑制する方法。
- 加熱や放射線、紫外線の照射、殺菌剤などにより食品中の微生物を不活性化して、容器に密封し外部からの二次汚染を防ぐ方法。
食品の保蔵は多くの場合、食品に存在する微生物を殺滅したり、その増殖を抑制することによって達成できる。しかしながら、それよりもさらに大切なことは、食品の原料・副原料、ならびに加工、製造の各工程における種々の微生物の汚染をできるだけ防除することであり、特に食中毒原因菌についてはこの事がもっとも重要である。
- 紫外線殺菌による保蔵
-
殺菌力の強い紫外線を照射することによる。しかし、紫外線は浸透力がほとんどないので、表面だけしか効果がなく、また、影になった部分は殺菌できない。
紫外線は食品の保蔵効果を期待するよりも、むしろ食品取扱中に付着する微生物を殺す、あるいは減らすという清潔な環境作りに利用される。
●微生物の湿熱下での耐熱性 微生物 加熱温度(℃) 死滅に要する時間(分) ボツリヌス菌胞子A型・B型 110
112
120360
36
4ボツリヌス菌胞子E型 80
9020〜40
5フラットサワー菌(胞子) 100
1101030<
35枯草菌胞子 100
120175〜185
7.5〜8サルモネラ菌 60 4.3〜30 大腸菌 57 20〜30 四連球菌 61〜65 30< ブドウ球菌 60 18.8 乳酸菌 71 30 腸炎ビブリオ菌 60 30 カビ菌糸 60 5〜10 カビ胞子 65〜70 5〜10 酵母栄養細胞 55〜65 2〜3 酵母胞子 60 10〜15 参考文献:木村光,河合章;食品微生物,p65;培風館,1982
- 加熱殺菌による保蔵
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食品中の微生物の生存可能温度より高い温度で加熱する方法である。一般の細菌は高温には弱く、55〜75℃で10〜30分間の加熱で殺菌することができる。細菌の芽胞は熱に強く、100℃では死滅しないものが多い。芽胞を殺菌するには110〜120℃の高温加熱が必要となる。カビ・酵母の胞子は、細菌の芽胞よりは耐熱性が弱い。 加熱温度が高いほど種々の微生物を殺菌できるが、一方で食品の品質(色・味・食感など)を低下させるので、加熱温度はなるべく低く、時間は短いほうが望ましい。食品の状態(水分含量、食品成分、pHなど)で加熱殺菌効果が異なり、それぞれの食品や微生物の種類に応じた殺菌温度・時間を検討する必要がある。
●微生物殺菌に用いられている加熱方式 殺菌温度 加熱方式 殺菌温度(℃) 対象微生物 代表的な食品 熱水・蒸気殺菌 100以下 細菌・カビ・酵母 そうざい・ハム・ソーセージ 乾熱殺菌 100〜140 細菌・カビ・酵母 かまぼこ レトルト殺菌 100〜135 細菌芽胞・カビ・酵母 パウチ詰レトルト、食品魚肉ソーセージ HTST殺菌 100〜120 細菌芽胞・カビ・酵母 果汁・牛乳 UHT殺菌 135〜150 細菌芽胞・カビ・酵母 牛乳・豆乳・ケチャップ
- 冷蔵による保蔵
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食品が凍結しない範囲の低温(-2〜10℃)に貯蔵することにより、微生物の増殖を緩慢にするか、あるいは抑制する。ただし、低温微生物が増殖するため、貯蔵期間はかなり延長されるが、完全に保蔵されるわけではない。サルモネラ菌は5.2℃、腸炎ビブリオ菌は3.0℃、ブドウ球菌は6.7℃、ウェルシュ菌は6.5℃、ボツリヌス菌A・B型は10.0度、E型は3.3℃で増殖を抑制されるので、保存温度を0℃近くにすることによりほとんど全ての食中毒菌の増殖を阻止することができる。
- 凍結による保蔵
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食品を凍結点以下の温度で貯蔵することにより、微生物の増殖が完全に停止する。 凍結点以下で貯蔵された食品はその状態が保たれる限り長期間安定に保蔵される。凍結処理の際に、微生物の一部は凍結変性を受け死ぬが、残存した微生物は長期間にわたって休眠状態で生存している。 商業的な冷凍温度(-20〜-40℃)では、微生物による食品の悪変は完全に抑制されるが、微生物によらない化学的・酵素的な作用による食品の変質は避けられない。
●食品冷凍貯蔵期間 食品名 貯蔵期間(月)
-18℃の場合貯蔵期間(月)
-25℃の場合果実 アンズ 12 18 モモ(スライス) 12 18 イチゴ(スライス) 12 18 野菜類 アスパラガス 18 24以上 ブロッコリ 15 24 フライドポテト 24 24以上 肉類 牛肉 12 18 ラム肉 9 12 豚肉 6 12 鶏肉 12 24 魚介類 多脂肪魚 4 8 低脂肪魚 8 18 ヒラメ・カレイ類 10 24 エビ・カニ類 6 12 カキ 4 10
- 乾燥による保蔵
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乾燥による食品の保蔵は、微生物や酵素が活動するために必要な水分を除去すること、および食品中の塩分やエキス分が濃縮されて水分活性が低下することに基づいている。 一般に、食品中の水分が40〜50%になると細菌は増殖できない。カビ・酵母では水分10〜20%でも発育することがある。
- 食塩添加による保蔵
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微生物の増殖を完全に抑制しない程度の食塩添加によっても、腐敗生産物であるトリメチルアミンやアレルギー様食中毒の原因となるヒスタミンの生成を抑制することができる。 食塩を添加した食品を冷蔵することにより、その貯蔵性は一段と高められる。
●魚介類塩蔵品の水分活性 品名 水分活性 水分(%) 塩分(%) アジ開き 0.960 68 3.5 塩タラコ 0.915 62 7.9 ウニ塩辛 0.892 57 12.7 塩 鮭 0.886 60 11.3 シラス干し 0.866 59 12.7 イカ塩辛 0.804 64 17.2 イワシ生干し 0.800 55 13.6 カツオ塩辛 0.712 60 21.1 参考文献:清水潮;食品微生物の科学,p112;幸書房,2001
- 低pH(酸性)による保蔵
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食品は魚肉や獣肉のpH5.0以上の低酸性食品、トマトスープなどのpH4.5〜5.0の中酸性食品、果実類の缶詰などのpH3.7〜4.5の酸性食品、ピクルス・ブドウ酒などのpH3.7以下の高酸性食品に分類される。 pH3.7以下では通常の細菌は増殖できず、酢酸菌や酵母の一部などが増殖する。pH3.7〜4.5では食中毒菌はほとんど増殖できず、毒素も産生しない。細菌芽胞はpH4.5以下では発芽できない。 pH4.5〜5.0ではブドウ球菌、サルモネラ菌、ウェルシュ菌は食品中で生存している。ボツリヌス菌は増殖し毒素を産生する。5.0以上ではほとんどの微生物が増殖できる。 pHだけでなく温度管理や食塩添加などと組み合せることが有効である。ただし、酢の物やマリネなどの調味料的な酢の使用では保存効果は期待できないので注意が必要である。
- その他の添加物による保蔵
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微生物を死滅させる作用を有する殺菌料(殺菌剤)と、微生物の増殖を抑制する保存料(保存剤)が食品添加物として認められている。その使用に当たっては、法に定められた使用基準を厳守しなければならない。





















































